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YOSHIDAで体験する、高級時計への旅 ~第130回~

パテック フィリップが特別である5つの理由

2021.3.19
■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■永久カレンダー搭載クロノグラフ ■5270/1

文:名畑政治 / Text:Masaharu Nabata
編集:戸叶庸之 / Edit:Tsuneyuki Tokano

※掲載商品の情報は変更される場合がありますのでご了承ください。

 創業以来、180年以上に渡って時計の歴史に輝かしい足跡を残し、今もなお最上級の時計を作り続ける世界最高峰のウォッチ・メゾン、パテック フィリップ。だがなぜ彼らは昔も今もスイスの時計界にあって特別な存在と言われるのか? その謎を5つのキーワードから解明しよう。

ジュネーブの風土が育んだ長い歴史と伝統

 1839年、ひとつの時計工房が、ふたりの亡命ポーランド人によってジュネーブに創設された。そのふたりとはアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックと時計師フランソワ・チャペック。やがてチャペックは工房を離れるが、ほどなくしてパテックは、リューズで巻き上げと針合わせを行う機構を考案した有能な時計師ジャン・アドリアン・フィリップと出会い、彼を新たなパートナーとして迎え入れる。そして1851年、時計工房はふたりの名をとり「パテック フィリップ」と名乗ることとなった。

 このパテック フィリップが、その後、時計史に残る傑作を次々に生み出していったことは御存知の通り。その背景には彼らの優秀さに加え、創業の地であり、現在もパテック フィリップが拠点を構えるスイスのジュネーブという土地柄もあった。

 16世紀末、フランスの宗教弾圧から逃れ、ジュネーブへ移り住んだユグノー派の人々が伝えたのは、当時、世界でもっとも進んだ時計と宝飾、七宝(エナメル)の技術だった。

 やがて彼らがもたらした技術をベースに、ジュネーブに時計産業が興るが、現代のパテック フィリップには、この史実を伝えるモデルがある。

 たとえば懐中時計。現代の有名ウォッチ・メゾンにおいて、ここまで充実した懐中時計のコレクションを保有するメーカーを私はパテック フィリップ以外に知らない。

 そしてユグノー派の人々が伝えた七宝細密画(エナメル・ミニアチュール)の技術を駆使し、文字盤に古(いにしえ)のジュネーブの風景を描いた特別コレクションがある。

 まさにジュネーブに生まれたパテック フィリップの歴史と伝統の象徴とも言うべき希少なモデル。これがパテック フィリップが特別である第1の理由である。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■ポケットウォッチ ■972/1

ポケットウォッチ

パワーリザーブ表示とスモールセコンドを備えたオープンフェイスの懐中時計。ラック・ホワイトの文字盤には時刻が読み取りやすいアラビア数字のインデックスを配置。パテック フィリップ・シール取得。イエローゴールドのチェーンが付属する。

■972/1 ■44mm ■18Kイエローゴールドケース ■手巻き ■非防水(湿気・埃にのみ対処)


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■レア・ハンドクラフト ■5538

レア・ハンドクラフト

七宝細密画で文字盤にかつてのジュネーブの風景を描いたミニット・リピーター・トゥールビヨン装備の腕時計。白い七宝のベースに青い酸化金属を含む釉薬で景色を描き、800~820°Cという高温で10回から15回も炉で焼成される。この七宝文字盤の製作工程には合計で100時間もの作業が必要だったという。サファイヤクリスタルとホワイトゴールド仕様の通常のケースバックが付属。

■5538 ■37mm ■18Kホワイトゴールドケース ■手巻き ■非防水(湿気・埃にのみ対処) ■参考商品

叡智を積み上げ難題を解決する高度な技術力

 パテック フィリップというウォッチ・メゾンが特別である第2の理由。それがスイスの時計業界をリードする高度な技術力である。

 これを示すのがグランド・コンプリケーションと呼ばれる超複雑時計を自社で開発・製造できるという点。その中でもシンボル的存在なのが永久カレンダーだ。

 永久カレンダーとは、時、分、日、曜、月などを自動的に表示し、4年に一度の閏年も2月29日から3月1日に自動でジャンプして表示する機構。

 これを最初に製作したのは、1853年、スイス・ジュウ渓谷の時計師ルイ・エリゼ・ピゲだったとは、名著「スイス時計の技術と歴史」(1953年刊)に記されているが、その腕時計化に成功したのが、他ならぬパテック フィリップだった。

 1925年、パテック フィリップは婦人用ペンダントウォッチ(小型懐中時計)のムーブメントを用いて世界初の永久カレンダー腕時計「No. 97 975」を製作。そして1941年からは永久カレンダー腕時計の本格的な生産を開始し、1985年には初の自動巻き永久カレンダー・ムーブメントCal.240 Qを実現する。

 現在、パテック フィリップでは永久カレンダーとクロノグラフを融合したRef.5270/1など、いくつもの永久カレンダーをラインナップ。このように永久カレンダーひとつとっても豊富なバリエーションを展開し、それらを自社で開発・製造できるという高度な技術力が、パテック フィリップが特別である第2の理由である。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■永久カレンダー搭載クロノグラフ ■5270/1

永久カレンダー搭載クロノグラフ

曜日、月、閏年、昼夜を窓で表示し、 日付を指針で表示すると共にクロノグラフ機構をも統合したCal.CH 29-535 PS Qを搭載。文字盤外周部には1キロメートルの走行時間を計測することで平均速度を瞬時に割り出すタキメーター目盛が刻まれている。サファイヤクリスタル・バックと通常のケースバックが共に付属。

■5270/1 ■41mm ■18Kローズゴールドケース&ブレスレット ■手巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ

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機能と審美性を両立させた卓越したデザイン性

「デザイン」という言葉を、多くの日本人は誤解している。そもそも「デザイン」とは「設計」。単に色や形だけでなく、機構と外装のすべてを「設計」することが、すなわち「デザイン」なのだ。

 したがって「デザインは良いが使いにくい」ということはあり得ず、使い勝手が悪ければ「デザイン」が悪いのだ。

 これを大前提として、「腕時計の歴史上、もっとも完成されたデザイン」と呼ばれるパテック フィリップの名作「カラトラバ」を考えたい。

 この「カラトラバ」に奇をてらった部分はひとつもない。“ラウンド型の腕時計”という言葉から想起されるイメージを、そのまま素直に具現化したのが「カラトラバ」である。そして、このシンプルで普遍的な形にこそ、腕時計の「デザイン」の本質が宿っている。

 この完璧な造型。そして、そこに封じ込められた“時刻を示す”という時計本来の責務を忠実にこなす機能性。この究極のベーシックとも言うべきスタイルを、当然のように作り続けるパテック フィリップ。それらすべてがパテック フィリップが特別であることの第3の理由である。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■カラトラバ ■5196

カラトラバ

ラウンド型腕時計の古典であり、洗練とエレガンスを極めたパテック フィリップを象徴するモデルとして永遠の命を宿した究極のタイムピース。スモールセコンド搭載の手巻きムーブメント「Cal.215 PS」を搭載。バトン型の植字インデックスとシャープなドフィーヌ針によって優れた視認性も発揮する。パテック フィリップ・シール取得。

■5196 ■37mm ■18Kローズゴールドケース ■アリゲーターストラップ ■手巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ

多彩な機能で生活を豊かに彩る比類なき実用性

 技術力の高さを示すグランド・コンプリケーションだが、そこまでの高度な機能ではなくても日常生活に役立つ実用的な機構がある。それが世界主要都市の時刻を示す「ワールドタイム」や第2タイムゾーンの時刻を表示する「GMT」など。

 中でも、実用性の高さで人気を集めているのが、パテック フィリップが1996年に特許を取得した「年次カレンダー」機構である。

「年次カレンダー」とは、1年に1度、2月末から3月1日に切り替わるときだけ手動で日付を修正すれば、他の月は自動的に正しい月と曜日と日付を表示する機構のこと。

 この発明によりカレンダー表示時計が身近な存在となったことは言うまでもない。

 現在、パテック フィリップのコレクションには、この極めて実用的な「年次カレンダー」機構を搭載するモデルが多数存在するが、2019年に発表されたRef.5235/50は、かつて時計師が標準時計として用いた「レギュレーター」と呼ばれる高精度な置時計に見られた時・分・秒をそれぞれ別軸に取り付けた針で表示するスタイルを採用している。

 この一見、地味だが極めて実用性に富んだ機構を開発し、やがてそれを普遍的なものへと昇華させるパテック フィリップ。これこそが彼らが特別である第4の理由だ。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■年次カレンダー ■5235/50

年次カレンダー

グラファイト(濃いグレー)とエボニーブラックのツートーンによって構成された魅力的な文字盤を備える人気のモデル。ベースのグラファイトの部分は縦のヘアライン仕上げ。ブラックのインダイアルや月・曜日・日の表示窓、外周部の分目盛が美しく浮き出す。パテック フィリップ・アドバンストリサーチ部門が開発したSilinvar®素材のPulsomax®脱進機(ガンギ車とアンクル)とSpiromax®髭ぜんまいを搭載。

■5235/50 ■40.5mm ■18Kローズゴールドケース ■アリゲーターストラップ ■自動巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ

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大胆な発想で時計界を牽引する創造力と革新性

 いくら長い歴史と高い技術力があっても、現状に固執していては価値がない。しかしパテック フィリップは違う。

 例えば1976年にパテック フィリップ初のステンレススチール製スポーツコレクションとして誕生した「ノーチラス」。この時、「ノーチラス」のオリジナル・モデルRef.3700/1Aは、当時の常識を打ち破る薄型ケースながら、12気圧という高い防水性を確保していた。その秘密はケースバックとミドルケースが一体となり、これに左右のヒンジでベゼルを固定するという2ピース構造だった。

 このヒンジのため、左右には独特の張り出しができるが、このスタイルは船の船体に設けられ、蝶番とネジ止めで気密性を高めた「舷窓(げんそう)」にインスパイアされたもの。この「舷窓」を思わせるフォルムがフランスの小説家ジュール・ヴェルヌが小説『海底二万里』に登場させた潜水艦ノーチラス号へと繋がりネーミングの由来となったに違いない。ちなみに「ノーチラス」とはラテン語でオウムガイの意味。このオウムガイは約5億年前から形態が変わっていない“生きている化石”である。

 しかしパテック フィリップの「ノーチラス」は、決して“生きている化石”ではなかった。誕生当時、“世界一高額なステンレススチール製腕時計”として“ウェットスーツにもディナースーツにも似合う時計”としてラグジュアリースポーツ・ウォッチの分野を牽引する存在となった「ノーチラス」は、2006年に登場したRef.5711でネジ込み式の3ピース構造へ進化。12気圧防水を確保しつつ、ケース構造の改革で搭載ムーブメントに広がりが生まれ、クロノグラフや年次カレンダー、さらに永久カレンダーなどの豊富なバリエーションが生まれた。

 絶大な人気を得ながらも、その地位に甘んじることなく進化し、さらに新たな領域を切り開いていく「ノーチラス」と、これを生み出したパテック フィリップ。この革新への飽くなき探究心こそ、パテック フィリップが特別である第5の理由にほかならない。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■ノーチラス ■5711/1A

ノーチラス

現在、活況を呈するラグジュアリースポーツというジャンルを確立し牽引してきた「ノーチラス」のベーシック・モデル。「舷窓」から着想されたケースと水平エンボス加工が施された文字盤によって絶大な人気を獲得したパテック フィリップの革命児である。3時位置に日付窓を設置。サファイヤクリスタル・バックながら12気圧防水を確保。

■5711/1A ■40mm ■ステンレススチールケース&ブレスレット ■自動巻き ■12気圧防水 ■現在製造を中止

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ロングランの人気連載コラム。グレッシブが擁するベテランから気鋭のライターが、YOSHIDAが取り扱うタイムピースおよびブランドをご紹介します。時計の基本的な情報はもちろん、この連載ならではの様々な切り口で注目ブランドの魅力を解説します。パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ウブロなどの人気ブランドから新進気鋭まで名店YOSHIDAならではの審美眼について特集を展開します。

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