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YOSHIDAで体験する、高級時計への旅 ~第213回~

パテック フィリップに見る機械式時計の美

2022.10.21
■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■クロノグラフ ■5172

文:名畑政治 / Text:Masaharu Nabata
編集:戸叶庸之 / Edit:Tsuneyuki Tokano

※掲載商品の情報は変更される場合がありますのでご了承ください。

 手巻きから自動巻きまで、多彩で豊富なムーブメントを自社で開発・生産するパテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)。そのメカニズムの美しさと特徴を、6つのムーブメントとそれを搭載する時計を通して紹介しよう。

機械式ムーブメントの美を体現する
超ハイエンドなクロノグラフ

 機械式時計の美というテーマで、真っ先に思い出すのはクロノグラフのムーブメントである。歯車やレバー、板バネが複雑かつ整然と設置されたムーブメントは、“腕の上の小宇宙”と形容される腕時計の機械美を代表する存在である。

 ましてやパテック フィリップの生み出したハイエンドなクロノグラフCal.CH 29-535 PSともなれば、その構成の美しさと仕上げと輝きは別格である。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■クロノグラフ ■5172

超ハイエンドなムーブメントならではの美的な構成と手間のかかった仕上げの技を堪能できるのが、「クロノグラフ 5172」に搭載される手巻きクロノグラフのムーブメントCal.CH 29-535 PSの最大の見所である。このムーブメントの美しさと比類なき高精度はすべての機械式腕時計愛好家の羨望の的である。

 中でも特に注目したいポイントがふたつ。第一はムーブメントに設置されたバネ類がすべて削り出した板バネであること。これが通常のクロノグラフなら、細いワイヤーを曲げたバネが用いられるが、パテック フィリップの超ハイエンドなクロノグラフでは、このような仕様は用いられない。第二のポイントがコラムホイール。これは何本かの柱(コラム)を立てた特殊な歯車を回転させて噛み合うレバーを動かし、クロノグラフのスタート、ストップ、リセットなどの操作を司る重要なパーツ。高級クロノグラフでは、このコラムホイール(ピラーホイールとも呼ぶ)が必須と言われているが、パテック フィリップのような最高峰メゾンでは、コラムホイールにカバー(フタ)をかぶせ、コラム自体を上面から見ることができない。

 さらに、このムーブメントの開発にあたってパテック フィリップでは、新しい歯型曲線や歯車の噛み合い調整の最適化、復針レバーの各ハンマーの自動位置決めなど、6つもの技術革新による特許を取得したという。つまり、外観はもちろん、作動の確実性や精度においてもクロノグラフの頂点を極めたムーブメントなのである。2022年の新作Ref.5172でその魅力を堪能できる。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■クロノグラフ ■5172

クロノグラフ

ローズゴールドめっきのオパーリン文字盤を備えたクロノグラフ。この印象深いダイアルに設置された立体的なアラビア数字インデックスとシリンジ(注射器)型の時・分針には暗闇や夜間に発光する蓄光塗料が塗布され、確かな視認性を提供する。

■5172 ■41mm ■18Kホワイトゴールドケース ■アリゲーターストラップ ■手巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■クロノグラフ ■5172

18Kホワイトゴールド製のケースにはサファイヤクリスタルのケースバックが採用されており、ハイエンドなクロノグラフならではの美しい構成美を持つCal.CH 29-535 PSの姿をいつでも好きなときに眺めることができる。

サイズ拡大で機能と性能が向上した
パテック フィリップの新世代基礎キャリバー

 2021年の新作として発表された「カラトラバ 6119」は、1985年発表のRef.3919から継承された《クルー・ド・パリ》のギョシェ装飾が施されたベゼル、39mmという現代的なケース径とダイアルおよび針をリニューアルしたことで、「カラトラバ」の新たな魅力を提唱するモデルとして話題を呼んだ。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■カラトラバ ■6119

カラトラバ

ギヨシェ装飾による《クルー・ド・パリ》が刻まれたベゼルを装備する過去の人気モデルをベースに、ケース径を拡大してリニューアルを施した。光を受けて輝くファセット仕上げのゴールド植字インデックスとドフィーヌ型時・分針が時を超えたエレガンスを表現する。

■6119 ■39mm ■18Kローズゴールドケース ■アリゲーターストラップ ■手巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ

 このモデルにはもうひとつ重要なポイントがある。それはパテック フィリップの新しい手巻きの基礎ムーブメントと言うべきCal.30-255 PSを搭載していたことだ。

 このムーブメントの直径は31mm。かつて腕時計ムーブメントの限界サイズは直径30mmであり、天文台主催の精度コンクールでも、ムーブメント直径30mm以下が条件だった。だが近年は腕時計の大型化が進み、ムーブメント直径が30mmでは精度追求やパワーリザーブ向上の面で物足らないという意見が多く聞かれる。おそらく、パテック フィリップもこのような事情を十分に咀嚼し、この新型ムーブメントを開発したのではないだろうか?


  • PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) Cal.30-255 PS
  • PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) Cal.30-255 PS

ムーブメントの直径は31mm、厚さは2.55mmという薄型設計のCal.30-255 PS。並列に設置されたふたつの香箱を装備し、最小65時間というロングパワーリザーブを実現している。

 大型化によるメリットは計り知れない。面積が増えることで輪列構造に余裕ができ、テンワも大型化できるので精度的にも有利。事実、このムーブメントでは香箱を並列に2個配置することで約65時間という長いパワーリザーブを実現している。

 とはいえ無闇に大型化したわけではない。ムーブメント直径31mmに対し厚さは2.55mm。この大型で薄いムーブメントにより「カラトラバ 6119」はケース径39mmという現代のニーズにマッチした外径と、フィット感に優れた厚さ8.1mmのケースを獲得した。もちろんCal.30-255 PSは、パテック フィリップによる厳しい検定と美的基準に合格したパテック フィリップ・シールを取得。その美しさはサファイヤクリスタル製ケースバックを通して、存分に堪能することができる。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■カラトラバ ■6119

「カラトラバ 6119」に搭載されている手巻きムーブメントCal.30‑255 PSは比較的大振りなブリッジでカバーされた輪列構造が特徴。そのブリッジのひとつにはパテック フィリップによる厳しい制度検定と美的審査に合格した証明となるパテック フィリップ・シールの取得を証明する刻印が施されている。

美しいブルーのダイアルに月が輝く
女性用のコンプリケーション

 地球が太陽を周る周期を基準に1年を365日とする太陽暦が一般化する以前、我々の祖先は月の満ち欠けの周期を基準とする太陰暦を用いていた。それほど月と地球は密接な関係を持ち、月の満ち欠けは我々の生活に大きな影響を及ぼすのである。

 この月の満ち欠け(月相)を表示する時計の機能がムーンフェイズ・インジケーターであり、永久カレンダーやトリプルカレンダーなど暦を表示するモデルには、ほぼ不可欠な機能となっている。そして、カレンダーウォッチのみならず、暦機能を持たないシンプルなモデルでもムーンフェイズ機能を持つモデルがある。それが、ここで紹介するパテック フィリップの「ムーンフェイズ 7121/200」である。

 ケース径33mmという小振りなこのモデルは、女性用のコンプリケーテッド・ウォッチとして2013年に発表され、ムーンフェイズ機能と華麗なジェム・セッティングによって、常に高い人気を維持し続けている。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■ムーンフェイズ ■7121/200

ムーンフェイズ

深みのあるブルーのダイアルにムーンフェイズ・インジケーターを装備したレディス・コンプリケーション。ベゼルに132個のダイヤモンド(約1.09カラット)をセット。このセッティングはダイヤモンドを2列に交互に並べた《ダンテール》(レース・スタイル)と呼ばれる技術を採用。

■7121/200 ■33mm ■18Kホワイトゴールドケース ■アリゲーターストラップ ■手巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ

 このモデルに搭載されるのがパテック フィリップ最小のコンプリケーション用のムーブメントであるCal.215 PS LU。外径は21.9mm、厚さは3.0mmで、スモールセコンドとムーンフェイズ・インジケーターを搭載する手巻きキャリバーだ。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■ムーンフェイズ ■7121/200

21.9mmという小振りなサイズの手巻きムーブメントCal.215 PS LU。部品総数は157個、18石。パワーリザーブは最小39時間、最大44時間となっており、高精度な歩度調整が可能なジャイロマックステンプを装備する。

 このムーブメントで特に注目したいのが、流れるようなラインを描くブリッジだ。このような曲線で構成された分割式のブリッジはスイス・ウォッチに特有のスタイル。これに対し懐中時計の時代から、輪列を大きなひとつのブリッジで覆うスタイルは主にドイツやイギリスで好まれており、その傾向は現代にまで続いている。

 その意味でCal.215 PS LUはスイス時計の古典的な美しさを継承する現代ではレアなムーブメント。そして、外径に比較してテンワが大きく、精密な歩度(時間精度)調整が可能なマスロットを装備するジャイロマックス・テンプによって、精度の面でも高い水準を維持していることも、このムーブメントの大きな特徴でもある。


37.5mmのケースに機能を凝縮した
ミディアムサイズのトラベルタイム

 航空用のアヴィエーションウォッチにインスピレーションを受けて誕生した「カラトラバ・パイロット・トラベルタイム」のコレクションに誕生したケース径37.5mmのミディアムサイズが、この「カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 7234」である。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■カラトラバ・パイロット・トラベルタイム ■7234

カラトラバ・パイロット・トラベルタイム

出発地と現地の時刻を表示するデュアルタイムゾーン機構を搭載し、出発地と現地の昼夜をダイアルの左右に設置された小窓で表示する。また、現地の日付を指針で表示するポインターデイト機構も組み込まれている。

■7234 ■37.5mm ■18Kホワイトゴールドケース ■カーフスキンストラップ ■自動巻き ■6気圧防水

 このモデルに搭載されるのが、フルサイズの自動巻きローターを装備するCal.26‑330 S C FUSであり、現代のパテック フィリップによるフルローターの自動巻きムーブメントの典型とも呼べるもの。ひときわ目を引くのが、巻き上げの効率を高めるために21Kのソリッドゴールドを用いたセンターローターである。

 このローターにはパテック フィリップのシンボルであるカラトラバ十字がエングレーブされており、このムーブメントが正統なるパテック フィリップの製品であることを証明する。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■カラトラバ・パイロット・トラベルタイム ■7234

サークル状の筋目模様(サーキュラード・コート・ド・ジュネーブ)が付けられた21Kソリッドゴールドのフルサイズローターを装備するCal.26‑330 S C FUSは、サファイヤクリスタル製のケースバックを通して、その美しさをいつでも鑑賞することができる。

 もちろん、ブリッジにはパテック フィリップが自社内で行う厳しい検定と美的な審査に合格したことを示すパテック フィリップ・シールの刻印も見ることができ、この自動巻きムーブメントが精度でも美しさでも超一級の品質を備えていることを自ら証明しているのである。


マイクロローターを搭載する
コンパクトな「ワールドタイム」

 2011年にレディスモデルとして発表された「ワールドタイム 7130」は、直径36mmの18Kローズゴールドケースの厚さを抑え、快適な装着感を実現するため、超薄型の自動巻きムーブメントCal.240 HUが搭載されている。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■ワールドタイム ■7130

ワールドタイム

パテック フィリップならではの世界時計機能搭載モデルを、モダンでエレガントなオリーブグリーン・ダイアルで再解釈したレディス用ワールドタイム・モデル。そのダイアルの外周部には読みやすいホワイトの文字で世界24の都市名が記されている。

■7130 ■36mm ■18Kローズゴールドケース ■カーフスキンストラップ ■自動巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ

 このCal.240 HUの特徴は、巻き上げに、ムーブメントの中心部からずれた部分に小型のローターを埋め込んだ偏心マイクロローターと呼ばれるシステムが採用されていることだ。


PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) Cal.240 HU

偏心マイクロローターを搭載する自動巻きムーブメントCal.240 HU。外径27.5mm、厚さ3.88mmのコンパクトなムーブメントに、24タイムゾーンの24時間表示と昼夜表示の機能を搭載。

 この特別な巻き上げ方式によって、ムーブメント全体の厚さを抑えることができるだけでなく、フルサイズのローターであれば、ムーブメントの半分が覆い隠されてしまうことを回避し、造形美を十分に堪能することを可能とするというメリットが生まれたのだ。

 そして、このマイクロローターには比重の高い22Kソリッドゴールドを用いることで、小型ながら十分な巻き上げ効率を実現している。その点においても、偏心マイクロローター巻き上げ方式を採用したCal.240 HUの視覚的な面白さがある。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■ワールドタイム ■7130

「ワールドタイム 7130」に搭載されているCal.240 HUは、ムーブメントの中心部からずれた位置に埋め込むようにしてセットされた小型の自動巻きローターを持つ、偏心マイクロローターを装備する。

高品位ムーブメントを搭載する
女性のための自動巻きモデル

 スタイリッシュで活動的な現代女性のための機械式自動巻きの「Twenty~4 オートマチック 7300/1200」。搭載されているムーブメントはパテック フィリップが自社で製造から開発までを行ったCal.324 S C。これは直径27mmという小振りなサイズながら、フルサイズの21Kソリッドゴールド製巻き上げローターを搭載し、十分な巻き上げ効率とパワーリザーブを実現した、優れた自動巻きムーブメントである。


■PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) ■Twenty~4 オートマチック ■7300/1200

Twenty~4 オートマチック

女性のエレガンスを体現する「Twenty~4 オートマチック 7300/1200」は、コレクションで初めてラウンド型ケースを採用。ベゼルには160個(約0.77カラット)のダイヤモンドをセッティング。ステンレススチール・ケースのモデルでは、このブルー・ソレイユの他、ブラック・グラデーションのグレー・ソレイユダイアルなども用意されている。

■7300/1200 ■36mm ■ステンレススチールケース&ブレスレット ■自動巻き ■3気圧防水 ■価格要お問い合わせ


PATEK PHILIPPE(パテック フィリップ) Cal.324 S C

Cal.324 S Cは外径27mm、厚さ3.57mm。21Kソリッドゴールドのセンターローターを装備し、最小35時間、最大45時間のパワーリザーブをもたらす。

 このムーブメントにも精密な歩度調整が可能なスロットを装備するジャイロマックステンプを採用。婦人用自動巻きモデルながら、高い精度を実現している。

 そしてサファイヤクリスタルのケースバックによって、この精密にして高精度なCal.324 S Cを好きなときにいつでも鑑賞できることも、このモデルの大きな特徴。

 これまで“女性は機械式ムーブメントに興味はない”とされてきたが、高級機械式腕時計の人気と浸透ぶりから、このような仕様に至ったことは、ひとりの機械式時計ファンとして素直に喜ばしいと思うのである。

 写真で紹介したブルー・ソレイユをはじめ、オリーブグリーン・ソレイユ、ブラウン・ソレイユなど素敵なカラーのダイアルがそろった「Twenty~4 オートマチック 7300/1200」。そのスポーティかつエレガントなスタイルを楽しむと同時に、是非、ケースバックから見えるムーブメントの美しさも堪能していただきたい。




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【 連載コラム 】

ロングランの人気連載コラム。グレッシブが擁するベテランから気鋭のライターが、YOSHIDAが取り扱うタイムピースおよびブランドをご紹介します。時計の基本的な情報はもちろん、この連載ならではの様々な切り口で注目ブランドの魅力を解説します。パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ウブロなどの人気ブランドから新進気鋭まで名店YOSHIDAならではの審美眼について特集を展開します。

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