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YOSHIDAで体験する、高級時計への旅 ~第53回~

ダイヤモンドの王、
ハリー・ウィンストンの矜持

2019.9.27
■HARRY WINSTON(ハリー・ウィンストン) ■HW オーシャン・レトログラード オートマティック 42mm / HW アヴェニュー・クラシック ムーンフェイズ ■OCEAHR42RR002 / AVEQMP21WW004

文:名畑政治 / Text:Masaharu Nabata
編集:戸叶庸之 / Edit:Tsuneyuki Tokano

※掲載商品の情報及び価格は変更される場合がありますのでご了承ください。

 世界屈指のジュエラーであり、かつタイムピースの世界でも強い存在感を示すHARRY WINSTON(ハリー・ウィンストン)。彼らがジュネーブの自社工場で生み出すタイムピースには、歴史と経験に培われた宝飾セッティングの技術がふんだんに盛り込まれている。その技術の原点を解き明かすとともに、時計店YOSHIDA(ヨシダ)が注目するハイエンドウォッチを紹介しよう。

ジュエリー界に革命をもたらした
ハリー・ウィンストンの偉業

 ウォッチ・メーカーとしてのハリー・ウィンストン。その歴史は1989年にスタートしたが、その名はまず世界屈指のジュエラー(宝飾商)として多くの人々に知られた。

 ハリー・ウィンストンの創業は1932年。それは宝石に関する並外れた知識と審美眼を兼ね備えたハリー・ウィンストン氏(1896~1978年)が、1932年に米国ニューヨークで創業したサロンから始まった。

 そして1935年にハリー・ウィンストン氏は726カラットという巨大なダイヤモンド原石「ヨンカー」を入手。この「ヨンカー」は12個に分割され、中でも一番大きくカットされたものは、125.35カラットのエメラルドカット・ダイヤモンドとなったという。1938年には、これを上回る726.60カラットのダイヤモンド原石「ヴァルガス」を購入。ハリー・ウィンストンの名を世界に知らしめた。


HARRY WINSTON(ハリー・ウィンストン) 創始者ハリー・ウィンストン氏

たった一代で巨万の富を築いた創始者のハリー・ウィンストン氏。

 このような巨大原石の入手だけでなく、ハリー・ウィンストンはジュエラーとして特筆すべき仕事をいくつも残している。そのひとつが1940年代にハリー・ウィンストンが開発した先駆的なセッティング技法。これはダイヤモンドひとつひとつの輝きが最大限となる技法であり、その後のブランドのジュエリー・デザインの基本を確立することとなった。

 こうしてダイヤモンドを筆頭とするさまざまな宝石の魅力を引きだし、世界に伝え続けてきたハリー・ウィンストンは、1944年にアカデミー賞主演女優賞受賞の女優ジェニファー・ジョーンズにダイヤモンド・ジュエリーを貸し出したことで『スターたちのジュエラー』と呼ばれるようになる。この“事実”をさらに有名にしたのがマリリン・モンローだった。マリリンは彼女の主演した映画「紳士は金髪がお好き」(1953年)の中で、“教えて、ハリー・ウィンストン!私にダイヤモンドのすべてを!”と歌い、世界中の誰もが『スターたちのジュエラー』としてのハリー・ウィンストンの存在を認識したのである。

 その後もハリー・ウィンストンは世界のトップに位置するジュエラーとしての数々の偉業を残す。たとえば1949年には45.52カラットという世界最大級のブルーダイヤ「ホープ」を入手。これは1958年、米国スミソニアン博物館に寄贈されるが、1963年には127.01カラットの「ポーチュギーズ・ダイヤモンド」を、1964年には、253.7カラットというイエローダイヤモンド原石「オッペンハイマー」を同じくスミソニアン博物館に寄贈している。


HARRY WINSTON(ハリー・ウィンストン) ハリー・ウィンストン氏のコレクション

「宝石狂」とさえ呼ばれたハリー・ウィンストン氏の後ろ姿と彼のコレクションの数々。

アヴァンギャルドでスポーティな
「HW オーシャン」コレクション

 このような数々の偉業を成し遂げたハリー・ウィンストンは1989年、初のウォッチ・コレクションを発表し時計界に参入。2001年には独立時計師とのコラボレーションにより実現した独創的かつ革新的なタイムピース「オーパス」シリーズをスタートさせ、前衛的な時計を次々に世に送り出すことで、世界中の時計愛好家を驚かせたのである。

 このようなアヴァンギャルドなタイムピースを生み出すハリー・ウィンストンのスピリットを端的に表現したのが「HW オーシャン」である。このコレクションの特徴は、時刻の表示システムがノーマルな時計と異なり、針をセットするのが中心軸をはずしたオフセンター・デザインであったり、レトログラードと呼ばれる前進と退行を繰り返す針による表示など、極めて斬新で大胆な機構が採用されている。

 ここで紹介する「HW オーシャン・レトログラード オートマティック 42mm」は、その名称が示すとおり、時と分の表示にそれぞれレトログラード方式が採用されている。

 レトログラードとはフランス語で退行を示し、扇状の目盛を針が進んで時や分を示し、それが頂点(時の場合は12時、分は60分)に到達すると瞬時にゼロ位置に復帰すると同時に、再び前進して時を刻み出す、という複雑システムだ。

 そして、さらにこのモデルでは時計全体で91個(合計約4.41カラット)ものバゲットカットダイヤモンドがセットされており、目映いばかりの輝きを放っている。


神秘的な月の魅力を取り込んだ
華やかなレディスウォッチ

 世界のトップに君臨するジュエラーでありながら、時計作りにおいても卓越した手腕を発揮するハリー・ウィンストン。彼らのタイムピースにはジュエリーで培った豊富な経験と技術が遺憾なく発揮されている。そしてもうひとつ、ハリー・ウィンストンのタイムピースには彼らの歴史と伝統を継承する重要なモチーフがある。それがニューヨークのハリー・ウィンストン本店ファサード(正面入口)のアーチだ。

 このアーチのモチーフは「HW アヴェニュー」では、ケース上下にあしらわれ、メタルブレスレットにも導入されている。また「HW アヴェニュー」のストレートなレクタンギュラー(長方形)・ケースはハリー・ウィンストンのシンボルである本店が誕生したニューヨーク5番街へのオマージュだという。

 そして2019年発表の新作「HW アヴェニュー・クラシック ムーンフェイズ」では真珠母貝(マザー・オブ・パール)がダイアルに採用されている。

 真珠母貝とは文字通り“真珠を育てる貝”のこと。この「真珠母貝」にはアコヤガイ(阿古屋貝)やシロチョウガイ(白蝶貝)、アバロン(アワビ)などがあり、これらの貝の殻を薄くスライスしたものが時計のダイアルに用いられる。

 その魅力の根源は天然素材ならではの深い輝きと予測のつかないランダムな模様。特にこの新作では、12時位置のロゴを中心にセットされたダイヤモンドからマザー・オブ・パールを放射状に並べることで光が広がる情景を表している。

 この光の先にあるのがムーンフェイズ・インジケーター。月の満ち欠けを示すこの機構は極めてポエティック(詩的)なコンプリケーションである。

 しかも、このムーンフェイズの周りとケースにもダイヤモンドをセッティングすることで、より一層の華やかさとエレガンスを表現することにも成功している。


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