気鋭の時計ブランド、
グルーベル・フォルセイの現在と未来
文:野上亜紀 / Text:Aki Nogami
写真:岡村昌宏(クロスオーバー)/ Photos:Masahiro Okamura(CROSSOVER)
編集:戸叶庸之 / Edit:Tsuneyuki Tokano
※掲載商品の情報は変更される場合がありますのでご了承ください。
文:野上亜紀 / Text:Aki Nogami
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時代を先駆けるトゥールビヨンの開発に挑んできたグルーベル・フォルセイ(GREUBEL FORSEY)が、今年同社8番目の発明となる「トゥールビヨン カルダン」を発表。さらに、「ダブルバランシエール コンヴェクス カーボン 42.5mm」と「バランシエール コンヴェクス S² カーボン 41.5mm」のYOSHIDAスペシャルモデルというブランドの“今”を語る新作を手に、同社CEOのアントニオ・カルチェ氏が、グルーベル・フォルセイの現在と未来を語ってくれた。
“アート オブ インベンション(発明の芸術)”という矜持のもと、今までに見たことがない、画期的なタイムピースを生み出してきたグルーベル&フォルセイ。天才時計師である創業者、ロベール・グルーベルとステファン・フォルセイの二人から引継ぎ、現在同社を統括しているのが、2020年にCEOに就任したアントニオ・カルチェ氏だ。名だたるブランドの経営と再構築に携わってきた時計界の重鎮であるカルチェ氏は、今、グルーベル・フォルセイの新たなるステージに向き合おうとしている。
2004年のブランド創業時に登場した、2つのトゥールビヨンを30°に傾けた「ダブル・トゥールビヨン30°」に始まり、卓越の開発を続けてきたグルーベル・フォルセイ。アントニオ・カルチェ氏はこれまでにブランドが編み出してきた7つの発明を、「かけがえのない財産」と呼ぶ。
アントニオ・カルチェ/Antonio Calce
グルーベル・フォルセイCEO。1967年、スイス生まれ。工学とビジネスマネジメントを学んだ後、1994年にピアジェ マニュファクチュールに入社。その後ピアジェとパネライの製品開発部門のディレクターを務めたのち、パネライのマネージデングディレクターに就任する。2007年にコルムのCEOに就任し、ラ・ショー・ド・フォンの工房内での一貫体制を構築する。2015年からソーウインドグループのCEOとしてジラール・ペルゴのコレクション再構築に携わる。2020年、ステファン・フォルセイの招聘により、現職となる。
30°に傾くダブルテンプの調速機構を備えた「ダブルバランシエール コンヴェクス」も、そんな発明の歴史を今に受け継ぐモデルだ。2007年に20°に傾いた2つのテンプを持つ最初のプロトタイプが登場した同社6番目の発明となる「ダブル バランシエール」をベースとする。2つのテンプとそれをつなぎ、動力を分散させる1つのディファレンシャル機構が、実にアーキテクチュアルな構造美を映し出す。「コンヴェクス」ケース最小サイズとなる直径41.5mmの「バランシエール コンヴェクス S²」とともに、現代のグルーベル・フォルセイを綴る次世代のアイコンとして、大きなセンセーションを巻き起こした。
「未来への基幹となるイノベーションに向かって決して歩みを止めず、積極的に取り組んで行くことこそが、グルーベル・フォルセイの使命です。その証しとして、これまでの7つの発明に引き続く8つ目の発明となる『トゥールビヨン カルダン』が誕生しました」とカルチェ氏は語る。
上述のようにグルーベル・フォルセイのクリエーションに脈々と受け継がれてきたコードを崩すことなく、新たなクリエーションを展開する。そんな原則に則る“柱”の概念は、ブランドの再構築においても貫かれてきたものだ。それがカルチェ氏がブランドのDNAとして掲げる5つの柱、「発明とイノベーション」、「ハンドフィニッシング&ハンドウォッチメイキング」、「パフォーマンスと信頼性」、「アーキテクチャーとデザイン」、「エクスクルーシブと希少性」だ。
「たとえ数億円単位の開発費がかかろうとも、ひとつのキャリバーの生産期間は5年のみと定めています。例えばこの『トゥールビヨン カルダン』も今後5年間でのキャリバー製作数は、55個のみ。手にする人は、およそ1億人に一人、という計算になるでしょう」。
そんなエクスクルーシブな時計製作を標榜する同社の拠点は、時計の町として知られる、スイスの北西にあるラ・ショー・ド・フォン。時計の象徴的な構造同様に、30°に傾いた独創的な建築の工房は、18世紀の農家を買取り、改築したものとつながっている。
一見すると奇妙にさえ映る、斜めに傾けられたグルーベル・フォルセイのアトリエ。
アトリエ内部は、部門間のコミュニケーションを良くする工夫がなされている。
独創的な開発を続ける一方で、グルーベル・フォルセイは一人の時計師が組み立てから仕上げまでを行った200年前のウォッチメイキングに敬意を払ってきた。このアトリエには、そんな“伝統と革新”の精神が、今も脈々と息づいている。今後アトリエは、2025年~26年にかけて現在の2,000m²から、約3倍の5,460m²まで増築される予定。また、2024年初頭に東京・銀座での世界初のブティックオープンを皮切りに、グルーベル・フォルセイは、世界各国での展開を目指して次なる一歩を踏み出している。
このアトリエでの根幹となるのは、2つめの柱にある「ハンドメイド&ハンドフィニッシング」の指針だ。殊にグルーベル・フォルセイは手作業による仕上げ、ハンドフィニッシングに並々ならぬこだわりを持ってきた。例えばプロトタイプではマイクロブラスト加工であったグレード5のチタン製パーツが時計全体の審美性を損ねるものと判断すると、ブラックポリッシュに変更。特別な治具を用いて、立体的に仕上げていく。それにより、半分以上の領域を複雑な輪列で埋め尽くした文字盤の構造美が、さらに美しく際立つこととなる。ケースの内側一つを見ても文字盤が写り込むほどの美しさが目を奪う仕上げは、「アーキテクチャーとデザイン」というブランドのDNAを完成させるための、必要不可欠なノウハウとして受け継がれてきたのだ。カルチェ氏は次のように述べる。
「私たちの仕上げは、時計業界の中でもかなりの高水準と評価されており、例えばこの『トゥールビヨン カルダン』においても100パーセントを手作業で行い、かつユニークな仕上げを施しています。例えばほかのブランドが効率化を図り、機械を用いて6万本を生産するならば、私たちは時間をかけて、特別な200本をつくります。その妥協なき姿勢こそが私たちの強みであり、新たなマイルストーンとなるのです」。
目に見えるところから目に見えないところまで一切妥協しない“クレイジーなレベル”の仕上げ。
今後のアトリエの拡張も、生産本数を増やしつつ、「ミュージアム・クオリティ」と呼ぶ独自の基準を満たすにふさわしいウォッチメイキングを続けていくためである。また同様にカルチェ氏は、今後の展開を見据え、新たに若手の雇用と育成へと力を注いでいる。それも、ハンドフィニッシングをはじめ、徹底的に手仕事にこだわる、他とは異なるグルーベル・フォルセイの方法を習得してもらうためだ。
「仕上げの職人だけでも25人以上は確保せねばならず、かつ、現在『ハンドメイド』シリーズに用いているヘアスプリングも、ブランドの核としてさらに進化させていく試みです。私たちの顧客はみなさん、時計の深い知識を持った愛好家であり、熱心なコレクターばかり。その期待と信頼を裏切るわけにはいきません。細部へのこだわりが強いあまり、ときには“クレイジー”とも呼ばれるグルーベル・フォルセイのアプローチ。その唯一無二のオリジナリティが、たくさんの時計を目にし、確かな審美眼を持つ時計愛好家の心にこそ深く訴えかけるのだと、私は信じています」。
トゥールビヨン カルダン
グルーベル・フォルセイ第8番目の発明となるトゥールビヨンモデル。通常の4倍近くとなるわずか16秒の高速回転を叶えた。30°傾いた高速トゥールビヨンには、自社で設計・開発・製造した、慣性モーメントの大きい12.6mmの大型テンワを使用。トゥールビヨンを囲む2つの可動リングが48秒で前後に傾くという、不思議な動きを見せる。パーツごとに異なる仕上げを施した美観も実に美しい。
■P00753 ■45.5mm ■チタンケース ■ヴィーガンストラップ ■手巻き ■3気圧防水 ■世界限定55本 ■価格要お問い合わせ
通常の4倍もの高速回転をするトゥールビヨンを持つムーブメント。
ダブルバランシエール コンヴェクス カーボン 42.5mm
YOSHIDAスペシャルモデル
30°に傾いた、直径10mmの大きさの二つのテンワが目を引く。ダブルテンプを、6時位置と7時位置の間に見えるディファレンシャル機構で連結した、3つの調速機構を備えたタイムピース。写真は、カーボンケースを用いたYOSHIDAスペシャルモデル。
■P01289 ■42.5mm ■カーボン×チタンケース ■バリスティックラバーストラップ ■手巻き ■5気圧防水 ■YOSHIDAスペシャルモデル 限定30本 ■価格要お問い合わせ
バランシエール コンヴェクス S² カーボン 41.5mm
YOSHIDAスペシャルモデル
「コンヴェクス」ケースの中でも小径化となる直径41.5mm。コンパクトなサイズが文字盤上に見える機構の美しさを強調する。平均の8倍となる約16トンの圧力で高密度を達成したグルーベル・フォルセイ開発のカーボンケースを採用し、ケースの複雑な形状を完成させた。
■P01288 ■41.5mm ■カーボン×チタンケース ■バリスティックラバーストラップ ■手巻き ■5気圧防水 ■YOSHIDAスペシャルモデル 限定50本 ■価格要お問い合わせ
YOSHIDA 東京本店
東京都渋谷区幡ヶ谷2-13-5
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営業時間:10:30~19:30
年中無休(年末年始を除く)
名古屋 YOSHIDA
愛知県名古屋市中区栄3丁目17番17号
<Googlemapはこちら>
営業時間:10:30~19:30
年中無休(年末年始を除く)
ロングランの人気連載コラム。グレッシブが擁するベテランから気鋭のライターが、YOSHIDAが取り扱うタイムピースおよびブランドをご紹介します。時計の基本的な情報はもちろん、この連載ならではの様々な切り口で注目ブランドの魅力を解説します。パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ウブロなどの人気ブランドから新進気鋭まで名店YOSHIDAならではの審美眼について特集を展開します。
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