究極の薄さを追求する
ブルガリ「オクト フィニッシモ」の複雑機構
文:篠田哲生 / Text:Tetsuo Shinoda
編集:戸叶庸之 / Edit:Tsuneyuki Tokano
※掲載商品の情報及び価格は変更される場合がありますのでご了承ください。
文:篠田哲生 / Text:Tetsuo Shinoda
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華やかなブランドイメージとは裏腹に、ブルガリ(BVLGARI)のメンズウォッチには骨太な個性がある。一つは薄型を探求するということ。そしてもうひとつは、そこに超複雑機構を組み込むということである。“薄いのに超複雑”という類まれなる個性を持つブルガリのメンズウォッチは、知るほどに知的好奇心を刺激する対象となっている。
トゥールビヨン機構は懐中時計の時代に生まれた。胸ポケットの中で直立し続けると、時計の調速脱進機は重力の影響を受け、誤差(姿勢差)が生じてしまう。これを解決しようと考えたのが、天才時計師のアブラアン-ルイ・ブレゲ。彼は調速脱進機そのものをぐるぐると回転させることで重力が均等にかかるようにした。それこそが「トゥールビヨン機構」で、1801年に特許を取得している。
この機構はスペースに余裕がある懐中時計だからこそ可能であり、腕時計に組み込むのは至難の業である。なにせ調速脱進機をキャリッジに入れて回転させるので、どうしても厚みが出てしまう。多くの時計師が工夫を凝らし、設計を練り直し、今ではトゥールビヨンを腕時計組みこむのは、それほど難しくはなくなった。しかしそれはあくまでも、ある程度のケース厚を許容した場合であり、“トゥールビヨンで薄型”というのは常識外れの考え方である。
ではなぜブルガリは1.95mmという極薄のトゥールビヨンムーブメントを実現させたのか? ポイントはキャリッジを下から支えるフライング式を採用したこと。そしてキャリッジ自体が歯車となっており回転させるための動力を横側から取っている点にある。その複雑かつ知的な設計は、スケルトンモデルだとよくわかるだろう。
オクト フィニッシモ トゥールビヨン スケルトンブラック&レッド
赤のさし色が刺激的。スケルトンムーブメントのため、細部までメカニズムを堪能できる。
■103535 ■40mm ■チタニウムケース(ブラックDLC) ■ブラックラバーストラップ ■自動巻き ■30m防水 ■世界限定30本 ■¥20,163,000(税込)
時計内部のゴングとハンマーを使って音を鳴らし、その音色の組み合わせによって現在時刻を知らせるミニッツリピーター機構もまた、懐中時計の時代に生まれた伝統的な機構。これを小さな腕時計に組み込むのは至難の業であり、メカニズムは極めて複雑だ。しかし各ブランドはその複雑さを競う以上に美しい音色にこだわっており、ハンマーやゴングの素材や数、取り付け方、ケースの構造や素材などの研究開発に力を入れている。その音へのこだわり方は、もはや“楽器”といっていいだろう。
そしてこのミニッツリピーター機構もまた、すこぶる薄型ケースと相性が悪い。ギターやピアノを思い浮かべてほしいのだが、弾いた弦を美しく響かせるためには、音を反響させ増幅させる場所が必要になる。しかし限界まで薄型を極めるブルガリの時計の場合は、その反響させる場所がない。ではどうするのか?
ブルガリ「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」は、ムーブメントの厚みが3.12mm、そしてケースの厚みは6.61mmしかないので、ムーブメントの収まるバックケース側には寸分の余地もない。そこでインデックスをカットアウトし、音の振動をダイヤル側に逃がし、そのスペースを使って音を反響させているのだ。
薄型を極めるのは大変なことだが、何かを犠牲にしたら意味がない。ブルガリは音色を犠牲にすることなく薄型を追求した。それは驚くべきことであり、とても興味深いことでもある。ブルガリの時計はいつだって想像の先を行くのだ。
閏年の有無まで把握して動く永久カレンダー機構は、いわゆる3大コンプリケーション(他はトゥールビヨンとミニッツリピーター)の中では、最も一般化した機構といえるだろう。技巧派時計工房がモジュールを製作しており、機構も簡略化することで、比較的こなれた価格のモデルにも、永久カレンダーを搭載するようになっている。
もはや永久カレンダーだけでは威張れない時代になりつつあるが、だからこそブルガリの「オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー」のすごさが際立ってくる。
世界最薄の永久カレンダーウォッチに搭載されるムーブメントCal.BVL305は、408個ものパーツを使用しながら2.75mmという薄さを実現。ケース厚も5.8mmしかない。永久カレンダーモデルは、ゼンマイがほどけて止まってしまうとカレンダー調整がかなり面倒なので、自動巻き機構が基本形であり、未使用時はワインダーにかけて時計を動かし続けるのがセオリー。このモデルも自動巻き式だが、それでこれだけの薄さに仕上げるのは驚きだ。
ポイントとなるのはムーブメントに埋まるように自動巻きローターを組み込むマイクロローター機構を採用したこと。薄さを極めることは、一種の知的なパズルである。その妙味を楽しむものまた、ブルガリの楽しみ方なのである。
クロノグラフは多くの人に愛される人気機構だが、そのルーツをたどると、“時を操る”という哲学的な魅力を持ち、さらには生産管理や脈拍計測、速度や距離の計測などができるという機能性から、上級職の知識人が愛する複雑機構の一つとされてきた。
当然パーツ点数も多く、さらに歯車を積層する構造が求められるため、必然的に厚みが増す。腕時計のムーブメントは20世紀初頭からどんどん自動巻き化が進んだが、クロノグラフだけは1969年まで自動巻き化ができなかったのは、ローターを加えるとケースが厚くなりすぎるというジレンマを解決できなかったからである。
現在の自動巻き式クロノグラフは、薄くなったとはいえ12~14mmくらいのケース厚があるが、それでも十分なサイズ感だろう。しかしブルガリの「オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT」はレベルが違う。搭載するCal.BVL318は3.3mm厚で、時計のケースは8.75mm。これは通常の“手巻きドレスウォッチ”レベルの厚みだ。
この薄さを可能にしたのは、ペリフェラルローターという技術。ペリフェラルとは「周辺」という意味で、環状ローターをムーブメントの周りで回転させることで、自動巻き式ながらムーブメントの薄型化ができるのだ。クロノグラフを動かし続けるためには強いゼンマイトルクが必要であり、そのためには巻き上げ効率の高いローターを使って常にフルチャージ状態にするのが必須。ペリフェラルローターは薄型と性能を両立させる最適解といえるだろう。
しかも9時位置ボタンを押すと、3時位置の24時間式GMT表示の操作が可能となる。世界を旅するアクティブな人物像を、この時計のユーザーとみているから。薄いだけでなく、ライフスタイルにも寄り添う時計なのだ。
オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT
ダイヤルには縦筋目の仕上げを取り入れた。これは近年トレンドになりつつあるテクニックだ。
■103661 ■43mm ■ステンレススチールケース&ブレスレット ■自動巻き ■100m防水 ■¥2,673,000(税込)
オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック
平面はサテン仕上げで斜面はポリッシュ仕上げ。この違いでさらに立体感を強調する。
■103468 ■43mm ■18Kピンクゴールドケース ■アリゲーターストラップ ■自動巻き ■100m防水 ■¥5,665,000(税込)
オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT
全体をマットな質感で統一することで、より存在感のある時計に。
■103371 ■42mm ■チタニウムケース ■ブラックラバーストラップ ■自動巻き ■30m防水
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ロングランの人気連載コラム。グレッシブが擁するベテランから気鋭のライターが、YOSHIDAが取り扱うタイムピースおよびブランドをご紹介します。時計の基本的な情報はもちろん、この連載ならではの様々な切り口で注目ブランドの魅力を解説します。パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ウブロなどの人気ブランドから新進気鋭まで名店YOSHIDAならではの審美眼について特集を展開します。
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