オーデマ ピゲとマーベルが奇跡の融合

文：篠田哲生 / Text：Tetsuo Shinoda
編集：戸叶庸之 / Edit：Tsuneyuki Tokano

※掲載商品の情報及び価格は変更される場合がありますのでご了承ください。

　今となっては信じられないことなのだが、ほんの10数年前まで、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」は落ち着いた大人が持つ時計というイメージだった。ではなぜ、時計業界で最もパワフルなコレクションへと変貌したのか？ それはこの時計がポップカルチャーと深く結びついたからだ。そしてその関係性が新たなパートナーシップを生み出し、クラシカルな伝統技法を全く新しいスタイルで表現する、魅力的な新モデルへと結実した。

前代未聞のダイナミックなコラボレーションが実現！

「ロイヤル オーク」は、ポップカルチャーと深く関わるほぼ唯一のラグジュアリーウォッチである。特にヒップホップカルチャーとの関係性が深く、アイコニックな8角形ケースを愛する著名アーティストは多い。そして彼や彼女らのスタイルに憧れる若いファンたちもまた、オーデマ ピゲと「ロイヤル オーク」に憧れを抱いている。

　そんな「ロイヤル オーク」から新たなサプライズモデルが誕生した。なんとアメリカンコミックの雄「マーベル」とのコラボレーションがスタートしたのだ。

このプロジェクトのキーパーソンが、俳優のドン・チードル。彼とフランソワ-アンリ・ベナミアス（オーデマ ピゲCEO）は友人関係にあり、長年の夢であったマーベルとのコラボレーションの構想を語ると、チードルはすぐにマーベルに連絡してくれたという（彼はマーベルの「アイアンマン」シリーズなどに出演している）。

　こうして2017年からオーデマ ピゲとマーベルによるコラボレーションがスタート。多くの人気キャラクターを抱えるマーベルとコラボレーションするなら、当然キャラクターをイメージした何かを時計にあしらうことになるだろう。

　実は高級時計でも、ジェラルド・ジェンタのミッキーマウスウォッチに代表されるようにキャラクターウォッチが少なからず存在する。だがキャラクターをそのまま掲げるのは、オーデマ ピゲらしくない。では何を仕掛けてくるのか？

　2021年4月10日にオンラインで行われたバーチャルイベントにて発表されたのは、「ロイヤル オーク コンセプト “ブラックパンサー” フライング トゥールビヨン ユニークピース」だった。

バーチャルイベントで披露された「ロイヤル オーク コンセプト “ブラックパンサー” フライング トゥールビヨン」はユニークピースで一部の仕様が異なる。

進行役の人気コメディアン兼俳優のケヴィン・ハートとオーデマ ピゲのCEO、フランソワ-アンリ・ベナミアスのほか、錚々たるセレブリティがバーチャルイベントに参加。

　コラボレーション相手として、『ブラックパンサー』を選んだというのは慧眼だ。この物語は最新のテクノロジーを持ちつつ、伝統的な文化も守るアフリカの小国ワカンダが舞台。謎の鉱石ヴィブラニウムが持っている不思議な力は、中空に浮いているかのようにクルクルと回転するフライングトゥールビヨンともつながる。特徴的なケース装飾は、驚異的なパワーを発揮する“ブラックパンサー・スーツ”をイメージしたもの。そして印象的なパープルカラーは、ヴィブラニウムが放つ色からインスピレーションを受けたものだ。

ロイヤル オーク コンセプト “ブラックパンサー” フライング トゥールビヨン

手巻き式ムーブメントCal.2965を搭載。地板には幾何学模様をあしらい、迫力ある表現に。

■26620IO.OO.D077CA.01 ■42mm ■チタンケース ■ラバーストラップ ■手巻き ■50m防水 ■世界限定250本

　そしてダイヤルの上からは、ブラックパンサーがこちらを睨みつける。スーツや筋肉の質感や表情、立体感などは、全て手作業によるエングレービングによって仕上げられ、さらにその上からペインティングを施すことでヒーローの姿をよりリアルに描き出している。この部分だけでも、4名のエングレーバーと4名のペインターが30時間かけて作業するというが、この精密さと迫力を考えれば納得の手間である。

ケースバックから覗く姿もハイエンドモデルらしい迫力が感じられる。

　昨今の時計業界にはコラボレーションが溢れかえっている。しかしその中には、単なる名義貸しにしか思えないようなものも少なくない。だが「ロイヤル オーク コンセプト “ブラックパンサー” フライング トゥールビヨン」は、作品の世界観をきちんと取り入れ、さらに伝統工芸をモダンな形で表現するという新しい取り組みも見える。しかもロイヤル オークならではのポップカルチャーとの深いつながりも見えている。

　事実、「ロイヤル オーク コンセプト “ブラックパンサー” フライング トゥールビヨン」が発表されるや、全国のマーベルファンから問い合わせが殺到したそうだ。しかしこのモデルは、普段ならコラボレーションモデルに興味がない人、そしてマーベルやブラックパンサーに興味がない人にもお勧めできる。一度映画を見てからこの時計に触れれば、その奥深さがよくわかるだろう。

　さらにオーデマ ピゲではコラボレーションプロジェクトに合わせて、子供の教育をサポートする「ファーストブック」と起業家を支える「アショカ」という二つの非営利団体とのパートナーシップも締結し、世界を変える“次世代のヒーローたち”を支援する試みもスタート。高級時計という枠を超え、地球を救う活動を広げている。